Vol.2 ユタ州
〜荒野の奇観とモルモン教〜

松林の中にあるためパインアーチと呼ばれる

 アリゾナ州が壮観な景色だとすると、ユタ州は間違いなく奇観を呈していると言えるだろう。風や水のいたずらが作り上げた奇岩は、目を見張らせるものがある。規模こそグランドキャニオンには及ばないものの、グランドキャニオンに隣接しているキャニオンランド国立公園、ブライスキャニオン国立公園、ザイオン国立公園、アーチーズ国立公園など、強烈な個性を放つ国立公園群が散在する。国立公園ではないが、ソルトレイクシティーの由来にもなっている、グレートソルトレイクもある。100キロ近く、定規で線を引いたように真っ直ぐなインターステート(州間高速道路)が、干上がって真っ白に見える塩の平原を突っ切っている様は見事である。
 ユタ州と言うと何を想像するだろうか。最も有名なのは、州都ソルトレイクシティー、冬季オリンピック開催都市であった(2002年)。次に有名なのはモルモン教、古風で厳格な教義で知られている。中でも昔は一夫多妻制だったことは有名だ。現在もモルモン教の壮麗な総本山寺院が街の中央にそびえている。観光シーズンになると、英語のみならず、世界のメジャーな言語(日本語を含む)で観光客に見学ツアーを頻繁に呼びかける様を見る事ができる。気味悪がって入らない人も多かったことを付記しておく。呼び込みボランティアは見たところ、この地にモルモン信徒を率いて入植した彼らの英雄、ブリガム・ヤングの名を冠した大学、ブリガム・ヤング・ユニバーシティーの学生のようだった。ここは強豪バスケットボールチームでも有名だ。ブリガム・ヤング率いるモルモン教の一団が、神の契約の土地として1847年頃に大移動してきて定めた町でもあり、概して保守性が強く、アルコールはもちろん、あらゆるカフェインが入った飲料が信徒には禁止されている。店で売っているコーラなどのソフトドリンクに至るまで全てカフェインフリーだった。また、未婚女性は単身で男性とデートをしてはならず、集団が望ましいとか、スカートの丈はくるぶし近くまでとかいう戒律があるようだが、本当に守られているのかどうか分からない。一夫一妻制だけは守られているようだ。ブリガム・ヤング氏は若い男性ならうらやむほどの数の妻を持っていたが、1862年に正式に一夫一妻制が法律で確定すると、たびたび政府に反旗を翻し困らせた。

一番有名なダブルアーチ 赤丸の中の白い点が人間

 ソルトレイクシティーに行った際、モルモン教寺院の前を通りかかると、そこの留学生と思しき日本人留学生が私にかなり執拗に寺院の見学を迫ってきたのでキレて激高した。「ここの教義がイエス・キリストの流れを汲むと信じて憚らぬなら、彼は壮大な寺院を建てる事をよしとするとでも思うか!イエス・キリストはボロ衣を纏って荒地を巡礼していたではないかっ!」武芸者故か、若かりし頃は激すると時折、古風な言葉遣いになることがあった。言われた日本人学生は返す言葉もなく憮然として去っていった。ざまあみろと内心思った。昔からエセ信者に我慢ならない。概して古代から堕落した宗教屋は壮麗な寺院を、腐敗した政治屋は巨大な庁舎を建てたがるものである。私は主要な宗教についていくばかりか読み漁ったが、どの宗教でも現存している以上素晴らしい教義を持っている。それを行う人間が常に問題だった。私は今でも、時折、布教活動と称するおばさんたちの「言葉の受け売り布教」に厳しい指摘をして、聖書の解釈について異論を唱え、おばさん達を言いくるめて納得させてから追い返す。大抵は言葉の受け売りであることが分かる。そんな時は帰り際に「あなたたちの信仰は深みが足りません」とイヤミを言うこともある。
 私は合計4回、このユタを訪問している。何度訪れても圧巻なのはアーチーズ国立公園である。文字通り、岩のアーチが散在する。奇観故か、SFなどでもよくロケに使われる。写真をよく見てほしい。岩と風の芸術作品の巨大さがお分かりいただけるだろうか。夏に行ったときの暑さもまた、普通ではない。湿度が低いから汗はすぐに肌を離れる。気を付けないとすぐに脱水症状を起こす。
 この地域の穴場はキャニオンランド国立公園だ。位置はグランドキャニオンの北部に位置している。地質学的構成はグランドキャニオンとほぼ同じだが、交通の便が不便なのと、観光設備があまりないため、ワイルドなグランドキャニオンが体感できる。そこは渓谷の下まで自動車で行くことが出来る。もっとも、最近では「地球の歩き方」などでちらほらと紹介されてきているので、昔ほど穴場ではないかもしれない。アーチーズもキャニオンランドもモニュメントヴァレーを通るので、レンタカーを利用する方は、ぜひセットで行ってみるといいかもしれない。もちろん、全部回るにはそれなりの日数を要するがLAあたりをウロウロするよりは間違いなく価値があると思う。

デビルアーチ 不気味だ

グレートアーチ すでに崩壊してしまったと聞いた

 ザイオン国立公園は妙な言い回しになるが、「大きな箱庭」というのが一番言い得ていると思う。小さな(といっても巨大だが)地域にあらゆる地質学的現象が詰め込まれているといった趣だ。渓谷、渓流を遡るに従って、高さ数十メートルの断崖絶壁が狭まっていく谷、碁盤の目のような岩肌など、訪問者を飽きさせることがない。あいにく私はごく短い間だけ周遊しただけだった。
 ソルトレイクシティーの西側には町の名前の由来にもなっているグレートソルトレイク(塩湖)がある。水の色は良くないし、景色も良くない。夏には泳ぐ人もいるようだが、私はあまり感心しない。塩なので、真水よりは浮くらしい。グレートソルトレイクの南側を西に向かって真っ直ぐに伸びているインターステート80号は、まさに荒野を突き抜ける1本の線である。場所によっては100キロ近く、ほとんど完全に直線になっている。そのソルトレイクを過ぎたあたり、つまり湖の西側には湖の干上がった場所があり、真っ白な岩塩の大地が広がっている。その荒野はグレートソルトレイク砂漠と呼ばれ、軍の兵器実験場にもなっている。確かに時折戦闘機が飛び交っていた。
 このようにユタ州の大半は文字通りの荒野であるが、貴重な地質学的遺産も多く存在しており、観光客の目を楽しませてくれる。今回は写真を多めに掲載するのでご覧いただきたい。

 

キャニオンランド国立公園 グランドキャニオンに似ているが、もっと野性的

 

(左)キャニオンランド (右)アリゾナとユタの州境にもなっているコロラド川

  

(左)モルモン教寺院 観光客は多かった (中)米国にはこのような道路が多い (右)ドライブ中に見つけた奇岩

 

ソルトレイク 本当に真っ白い (あまりきれいではなさそうだったが)